TOP> ワークライフ コラム一覧> 冬タイヤに替えた直後がいちばん危ない?車輪脱落を防ぐ増し締めの話

冬タイヤへの交換シーズンが近づいてきました。
作業を終えて「これで冬支度は完了」と、ひと安心する人も多いはずです。

ところが国のデータを見ると、話はまるで逆。
大型車の車輪脱落事故は、タイヤ交換から1か月以内に半数以上が起きているのです。

この記事では、最新の事故データと国が求めている対策をもとに、交換したあとにやるべきことを整理しました。
増し締めのタイミングや、運行前に見ておきたい場所がわかります。
交換の予定を入れる前に、ひととおり目を通しておきましょう。

車輪脱落は年間128件、いまも増えている

国土交通省によると、2025年度に起きた大型車の車輪脱落事故は128件でした。
前年度の120件から8件増え、そのうち3件はけが人の出る事故になっています。

ここでいう大型車は、車両総重量8トン以上のトラックと、定員30人以上のバスのこと。
ホイールを留めるボルトが折れたり、ナットが外れたりして車輪が落ちたケースを数えています。
128件のうちバスは1件だけで、ほぼすべてが大型トラックです。

走行中に外れた車輪が歩行者やほかのクルマに当たれば、命にかかわる事故になりかねません。
タイヤが1本外れるだけで、運転していた人も会社も大きな責任を負うことになります。

国が「緊急対策」とキャンペーンを開始

事故が減らない状況を受け、国土交通省は9月末に「令和8年度緊急対策」をトラック業界へ通知しました。
あわせて2026年10月から翌年2月まで、「大型車の車輪脱落事故防止キャンペーン」も実施しています。

緊急対策では、自社でタイヤを交換する会社に作業内容の記録を求めています。
使うのは「タイヤ脱着作業管理表」という決まった書式です。
運行前の点検でも、ホイールの取り付け状態を確実に見るよう呼びかけています。

「交換したばかり」がいちばん危ないわけ

新しいタイヤに替えた直後は、ナットも締めたてで、つい安心しがちです。
しかし国土交通省の分析は、その感覚とは反対の傾向を示しています。

2025年度の車輪脱落事故(128件)割合
タイヤ交換などの作業後に外れた約85%
作業から1か月以内に外れた約54%
11月〜翌1月に起きた約50%
外れたのは左後輪約95%

冬タイヤへの交換が集中する時期と、事故が増える時期はぴったり重なります。
北海道や東北、北陸信越など雪の多い地域ほど、保有台数あたりの事故が多い点も特徴です。

締めたナットは走るうちにゆるむ

ホイールを取り付けた直後は、ナットやホイールの接触面がまだなじんでいません。
走りはじめると部品どうしがなじみ、締め付ける力が少しずつ落ちていきます。
国土交通省はこれを「初期なじみ」と呼んでいます。

そのため交換後は、少し走ってからもう一度締め直す「増し締め」が欠かせません。
増し締めをしないまま走り続けると、ゆるみが進んでボルトに無理な力がかかります。

半数以上は「自分たちで交換した」クルマ

だれがタイヤを交換したかで分けると、事故車の約56%は運送会社など車両の使用者が自分で作業していました。
タイヤ専門店は約27%、整備工場は約13%です。

冬タイヤへの切り替えは台数が多く、限られた時間で一気に片づけたくなるもの。
緊急対策でも、積雪予報が出てから慌てて交換しないよう計画的に進めることが求められています。

外れるのはなぜか左後輪ばかり

脱落した場所の約95%は左側の後輪でした。
国土交通省は、その理由として次のような可能性を挙げています。

  • 右折するときは速度を保ったまま曲がるため、遠心力で荷物の重さが左側にかかる
  • 左折するときは左後輪がほとんど回らないまま曲がり、タイヤがよじれるように力を受ける
  • 道路は中央が高く作られていることが多く、クルマが路肩側の左へ傾く

前輪に異常があればハンドルの振動で気づけますが、後輪の変化は運転席から感じにくいもの。
点検でいちばん時間をかけたいのは左後輪です。

事故を起こした車両に多かった不備

国土交通省は、事故を起こした車両を実際に調べています。
見つかった不備の割合は次のとおりで、1台に複数の不備があるケースも含みます。

不備の内容割合
締め付ける力の管理が不十分26%
増し締めをしていない20%
錆や汚れの清掃、部品の傷みの確認が不十分15%
潤滑剤の塗り方が不適切9%

作業を映像で記録していた整備事業者の例では、締め付けの不備12件のうち6件がナットの締め忘れでした。
急いで作業するほど、基本的なミスが起きやすくなるとわかります。

増し締めを忘れた12日後に脱落

国土交通省が公表した事故例のひとつは、2025年12月に一般道で起きています。
冬タイヤに替えたあと増し締めをせず、12日間で約2,300km走ったトラックでした。

交差点を左折する直前に異音がして、曲がったあとに停車。
ミラーで確かめると、左後ろのタイヤがすでに外れていました。
調べたところ、ナットに油分がなく、ボルトやナットには錆が出ていたそうです。

冬タイヤ交換のあとにやっておきたい4つのこと

ここからは、交換後の1か月を安全に乗り切るためのポイントです。
どれも国土交通省や自動車メーカーの団体が呼びかけている内容で、特別な道具はほとんど要りません。

①50〜100km走ったら増し締めする

国土交通省が示す増し締めの目安は、交換後50〜100kmを走ったころです。
時期が遅れること自体も、事故の原因として挙げられています。

出先で車載工具を使って増し締めしたときは、帰ってからトルクレンチで決められた力に締め直してください。
トルクレンチは、締め付ける力を数値で管理できる工具のことです。

決められた力(規定トルク)は、車種やホイールの方式によって違います。
「強く締めるほど安全」ではないので、取扱説明書や会社の整備管理者に確かめておきましょう。

②運行前に「見て・さわって」確かめる

国土交通省は、1日1回の運行前にボルトとナットを目で見て、手でさわって点検するよう求めています。
ナットのゆるみや錆など、いつもと違う様子に気づいたら、すぐに整備工場へ相談してください。

緊急対策では、点検ハンマでナットをたたき、音や手ごたえで確かめる方法も紹介されています。
交換から1か月は、特に左後輪を念入りに見る習慣をつけておくと安心です。

③合いマークでゆるみを見える化する

合いマークとは、増し締めのあとにナットからボルトへまたがるように引く線のことです。
線がずれていれば、ナットが回ってゆるんだサインになります。

線は白や黄色など目立つ色で、雨や日差しに強い油性のペンなどを使います。
ゆるんだまま引いても意味がないため、必ず増し締めを終えてから書き入れましょう。

④錆びた部品は使い回さない

交換作業のときは、ボルトやナットの錆と汚れを落としてから取り付けるのが基本です。
ナットとワッシャーのすき間には、潤滑剤(グリスなど)を塗っておきます。

錆がひどいホイールや、回したときに引っかかるボルト・ナットは、清掃しても使わずに交換するよう緊急対策で求められています。
錆が残ったままでは、規定どおりに締めても十分な力がかからないからです。

合言葉は「お・と・さ・な・い」

日本自動車工業会は、車輪脱落を防ぐポイントを「お・と・さ・な・い」の5文字にまとめています。
運行前点検やタイヤ交換のときに、ひとつずつ思い出してみてください。

  • お:おとさぬための点検整備
  • と:トルクレンチで適正締付
  • さ:さびたナットは清掃・交換
  • な:ナット・ワッシャー隙間に給脂
  • い:いちにち一度はゆるみの点検

同会は、事故の多くが清掃と給脂の不足から起きていると説明しています。
地味な作業ほど省かれやすいだけに、意識して時間を取りたいところです。

まとめ:交換した日から「1か月点検」を始めよう

冬タイヤへの交換は、冬支度のゴールではなくスタートです。
車輪脱落事故の半数以上は交換から1か月以内に起き、外れるのはほとんどが左後輪でした。

交換を終えたら、その日付と走行距離をスマホなどにメモしておきましょう。
50〜100kmで増し締めをして、合いマークを入れる。
そこから1か月は、運行前に左後輪を見てさわる。

この3つを今シーズンの決まりごとにすれば、車輪が外れるリスクは大きく下げられます。
まずは次のタイヤ交換の日程を、余裕を持って会社と相談するところから始めてみてください。

参考